小規模な会議室でプレゼンテーションを聴く聴衆

リアルタイム翻訳は語彙ではなくエンジニアリングの問題

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ライブ翻訳にわずかな遅延が生じると、会話に追いつけていない、どこか壊れているのではないかと感じてしまいがちです。しかし実際はその逆です。この遅延は直すべき欠陥ではありません。どれほど優秀な人間の通訳者でも避けられなかった、物理的な制約から生まれる当然の結果なのです。

遅延は不具合ではなく戦略です

会議通訳者はこれをイヤー・ボイス・スパン(耳で聞いてから別の言語で話し始めるまでの時間)と呼びます。経験を積んだプロの場合、この間隔はおおむね2秒から4秒です。理解が遅いからではなく、意図して待っているからです。意味を正しく捉えるには、十分な材料が必要になります。

ドイツ語の文を例にとりましょう。主動詞は文末に置かれることがよくあります。Ich habe gestern meinen alten Freund aus der Schule zufällig im Supermarkt getroffen を語順どおりに並べると「私は昨日、学校時代の旧友に、偶然、スーパーで、会った」となります。単語が届くたびに逐語的に訳す通訳者は、意味の通らない訳を生み出してしまいます。何が起きたのかを知るには、動詞を待つしかありません。これは速度と正確さのあいだの絶え間ないトレードオフであり、人間であれ機械であれ、そこから完全に逃れることはできません。

リアルタイム翻訳システムも、形を変えて同じジレンマに直面します。早く話し始めることはできますが、意味の精度は落ちます。文脈をより多く待つこともできますが、その分だけ遅延が増えます。このトレードオフをなくすことはできません。調整することしかできないのです。

「理解する」とは本当はどういうことか

単語を認識することと、文を理解することのあいだには違いがあります。認識であれば、機械は以前から得意でした。理解するとは、人間が意識すらせずに処理している曖昧さを解くことです。話し手の口調、言外の意味、3つ前の文で触れられた事柄への言及などがそれにあたります。

簡単な例を挙げましょう。英語の「I saw her duck」には2つの意味があります。彼女の飼っているアヒルを見た、という意味と、彼女がかがむのを見た、という意味です。文法規則ではどちらとも決められず、状況だけが答えを与えてくれます。こうしたありふれた小さな事例こそが、自動翻訳を音声認識だけよりもはるかに難しくしています。

日本語ではこの難しさがさらに顕著になります。文脈から明らかだと見なされるため、主語が省かれることが非常に多い言語だからです。主語をほぼ必ず必要とする英語に訳すということは、原文に存在しない情報を組み立て直すことを意味します。この段階になると、それは厳密な意味での翻訳ではありません。言葉本来の意味での解釈になっているのです。

画面に表示されたHTMLソースコードのクローズアップ

この問題の重さは言語によって異なります

言語の組み合わせによって、相性の良し悪しがあります。英語とスペイン語は語順(主語、動詞、目的語)が近く、文法構造も比較的似ており、順を追ってほぼ直線的に訳せる統語構造を持っています。一方で英語と日本語は障害が積み重なります。語順は反転し、対応する文法標識はなく、主語は省略され、直接の対応がない敬語表現の階層まで存在します。

翻訳システムの性能が、人間か自動かを問わず言語ペアによって大きく変わるのは偶然ではありません。難しさは語彙の豊かさの問題ではありません。2つの言語が思考を言葉に組み立てる方法として、どれだけ隔たっているかの問題です。Glotが対応する60以上の言語のあいだでは、この距離が大きく異なり、エンジニアリングはそれを織り込む必要があります。

本当の目標は遅延をなくすことではありません

進歩とはこの遅延を限りなくゼロに近づけることだ、と考えたくなります。しかしそれは問題設定を誤っています。遅延ゼロのシステムは、文脈を待たずに逐語的に訳すほかなく、先ほどの急いだドイツ語通訳者と同じように、一見正しく見えて意味は間違っている結果を生み出してしまいます。

ですから本当の問いは、どうすればもっと速くできるか、ではありません。いま話し始めてよいだけの情報が揃っているかを、瞬間ごとにどう判断するか、です。これこそGlotを含む最先端のリアルタイム翻訳システムが今日取り組んでいる課題です。遅延を消し去るのではなく、正確さを保てるだけの長さに、そして自然さを保てるだけの短さに整えることが目的なのです。

次にライブ翻訳が1、2秒だけ間を置いてから応答したとき、それは無駄な時間ではありません。正しく訳すために必要な時間なのです。

このエンジニアリングが実際のステージでどう機能するかをご覧になりませんか。

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